海外ライセンスにおける典型的な悩み
先日、ある経営者の方から次のようなご相談をいただきました。
「長年取引のある近隣アジアの企業から、自社が保有する技術についてライセンスを受けたいという依頼がありました。信頼関係はありますが、どのような契約形態にするのがよいでしょうか。」
ライセンス対価の2つの基本形
海外企業とのライセンス契約では、対価の設計が非常に重要なポイントとなります。特に実務上よく問題となるのが、次の2つの方式のいずれを選択するかです。
- 売り切り型(対価を一括で受け取る方式)
- 売上連動型(ランニング・ロイヤリティ)(相手の売上に応じて継続的に対価を受け取る方式)
売上連動型の魅力と期待
売上連動型は、対象製品がヒットすれば収入が拡大する可能性があるため、一見すると魅力的なスキームに見えます。特に、相手企業との関係が良好であり、将来の市場拡大が期待できる場合には、より大きなリターンを狙える選択肢として検討されることが多いでしょう。
本当に見るべきは「信頼」ではない
しかしながら、ここで重要なのは、「相手を信頼できるか」という点だけではありません。むしろ実務上は、「将来にわたって契約関係を安定的に維持できるか」という観点がより重要になります。
海外取引における構造的リスク
海外企業との取引では、企業同士の信頼関係が良好であっても、それを取り巻く外部環境が大きく変化する可能性があります。例えば、送金規制や為替制限の強化、税制の変更、現地の商習慣の違い、さらには政治的な要因による制度変更など、企業の努力だけではコントロールできないリスクが存在します。
売上連動型に潜む実務上の問題
このような状況において、売上連動型を採用している場合、そもそもロイヤリティの送金が滞る、売上の把握が困難になる、監査コストが増大する、といった問題が生じる可能性があります。また、紛争が発生した場合にも、契約の履行を実効的に確保することが難しいケースも少なくありません。
見落とされがちな管理コスト
さらに見落とされがちなのが、「管理コスト」の問題です。売上連動型では、売上報告の確認やロイヤリティ計算のチェック、必要に応じた監査対応など、契約締結後も継続的な管理が必要となります。海外案件ではこれらの負担が想定以上に大きくなることも多く、結果として当初想定していたほどの利益が残らないケースも見受けられます。
本件における実務的な判断
こうした点を踏まえ、本件のようにカントリーリスクが相応に存在する地域とのライセンスにおいては、将来の回収リスクや管理負担をできるだけ排除できる「売り切り型」を基本とすることをお勧めしました。契約の初期段階で対価を確定させておくことにより、不測の事態が生じた場合でも、最低限のリターンを確保することができるためです。
契約スキームはケースごとに異なる
もちろん、すべてのケースにおいて売り切り型が最適であるとは限りません。例えば、法制度が安定しており、会計の透明性も高く、長期的な関係構築が見込める相手方であれば、売上連動型を採用することにより、より大きな収益機会を得られる可能性もあります。
契約関係を維持できるかどうかの見極めが重要
重要なのは、契約スキームを「理想論」や「信頼関係」だけで選ぶのではなく、資金回収の確実性、契約履行の実効性、管理コストといった現実的な要素を踏まえて判断することです。
まとめ ― 契約時点でリスクを織り込む
技術ライセンス契約は、環境が安定している間は問題が顕在化しにくい一方で、一度状況が変化すると、その影響が長期間にわたって続く契約でもあります。だからこそ、契約締結時点でどこまでリスクを織り込んでおくかが、経営判断として極めて重要になります。
弊所では、海外展開を見据えた技術ライセンス契約の設計についても、実務的な観点からサポートしております。
個別の事情に応じた最適なスキームの検討が必要となりますので、ご関心がございましたらお気軽にご相談ください。
高松 孝行
株式会社ブランシェ 代表/弁理士(弁理士法人ブランシェ国際知的財産事務所)
国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)にて、最先端技術のライセンス交渉・事業化支援に従事。その後、スタートアップ支援や資金調達支援、ライセンス交渉等に携わる。現在は、株式会社ブランシェにおいて、技術を起点とした事業設計や知財戦略の立案を支援するとともに、弁理士として特許を中心とした権利化・係争業務にも従事。技術とビジネスを接続する実務に強みを有する。
