海外展開で商標はどこまで取るべきか ― 一気に出願するべき?段階的に進めるべき?

海外展開を検討している企業から、「海外でも商標を取りたいのですが、どこまで出願すべきでしょうか」というご相談をいただくことがあります。

このとき、多くの企業が悩まれるのは、「最初から複数の国に一気に出願するべきか、それとも段階的に進めるべきか」という点です。

結論から言えば、海外商標は「できるかどうか」ではなく、「どこまでやるか」を戦略的に決めることが重要です。

よくあるパターン:とりあえず全部出す

実務上よく見られるのが、「中国・タイ・ベトナムなど、展開予定の国にはすべて出願しておきたい」というケースです。

確かに、将来的なリスクを考えれば、あらかじめ権利を押さえておくことには一定の合理性があります。

しかし、海外出願は想像以上にコストがかかります。出願費用に加え、現地代理人費用、翻訳費用、拒絶対応費用などが発生し、複数国・複数区分で進めると、総額で100万円を超えることも珍しくありません。

そのため、初期段階から一気に広く出願する方法は、資金面で大きな負担となる可能性があります。

実務的な考え方:段階的に進める

こうした背景から、実務上は「段階的に進める」という考え方を採るケースが多く見られます。

例えば、

・まずは主力市場となる1〜2カ国に絞る

・指定商品・役務も必要最小限に絞る

・事業の進展に応じて出願国や区分を追加する

といった進め方です。

特に、まだ市場の反応が見えていない段階では、すべての国・すべての区分を一度にカバーするよりも、優先順位をつけて進める方が現実的です。

予算と補助金の視点

海外出願を検討する際には、予算の考え方も重要です。

実務では、中小企業の場合、補助金制度を活用しながら進めるケースも多く見られます。外国出願に対する補助制度を利用することで、費用負担を一定程度軽減することが可能です。

もっとも、補助金は出願のタイミングと制度の募集時期が合わないと利用しにくいという側面もあります。

そのため、単に「出願するかどうか」ではなく、「いつ出願するか(補助金のタイミング)」も含めて検討する必要があります。

国ごとの特性を踏まえる

さらに重要なのは、国ごとに制度や実務が大きく異なる点です。

例えば、

・審査が厳しく、拒絶されやすい国がある

・手続や審査に時間がかかる国がある

・現地代理人の関与が不可欠となる場合が多い

このように、日本と同じ感覚で進めることができない場面も少なくありません。

また、複数国へまとめて出願する方法としてマドプロ出願があり、費用を抑えられるといわれています。しかし実務上は、米国のように指定商品・役務の記載が非常に厳格な国では、補正指令がほぼ確実に発せられ、マドプロ経由であっても現地代理人の関与が必要となるケースが多く見られます。

その結果、想定以上に費用がかかることもあり、国によっては直接出願を選択した方が適している場合もあります。

まとめ

海外商標出願は、「やるか・やらないか」という単純な問題ではありません。

重要なのは、「どの国に、どの範囲で、どのタイミングで出願するか」という点を、事業の状況や予算と照らし合わせながら判断することです。

実務上は、最初からすべてをカバーするのではなく、優先順位をつけて段階的に進めていく方が、結果として無理のない形で権利を確保できるケースが多く見られます。

海外展開における知財戦略は、単なる手続ではなく、事業計画の一部として位置づけることが重要です。

海外出願の進め方や優先順位の考え方については、個別の事業内容によって大きく異なります。事業内容に応じた最適な進め方について、お気軽にご相談ください。

鈴木 徳子

株式会社ブランシェ 代表/弁理士(弁理士法人ブランシェ国際知的財産事務所)

ウォルト・ディズニー・ジャパンにてキャラクターライセンス業務に従事。現在は、株式会社ブランシェにおいて企業のIP戦略・ブランド構築支援を行うとともに、弁理士として特許・商標等の権利化業務にも携わる。キャラクタービジネスや海外展開を見据えた知財戦略の立案を強みとする。

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