知財戦略シリーズ①|知財戦略とは何か ― 事業との関係から考える

本記事は「知財戦略シリーズ」の第1回です。

知財は「権利取得」にとどまらない

企業において知的財産は、「特許を取る」「商標を登録する」といった“権利取得”の文脈で語られることが少なくありません。

しかし、実務の現場では、それだけで事業が守られることはほとんどありません。特許を取得していても、設計変更で回避されることもあれば、ブランドを変えて市場に参入されることもあります。つまり、「権利を取ること」と「事業を守ること」は別の問題です。この点を見誤ると、知財はコストで終わってしまいます。

一方で、知財を事業の中に組み込んで設計することで、
・競争優位の確立
・ブランド価値の強化
・ライセンスによる収益化

といった形で、事業そのものを支える基盤として機能させることが可能になります。

知財は単なる権利ではなく、事業と一体となって初めて意味を持つものです。

本稿では、このような観点から、知財戦略を「事業との関係」という視点で整理します。

知財は使われてこそ価値を持ち、事業モデルを映す

知財というと、「守る」というイメージが先行しがちです。もちろん、模倣を防ぐという役割は重要ですが、それだけでは十分ではありません。知財は、取得すること自体に意味があるのではなく、事業の中でどのように使われるかによって価値が決まります。

例えば、
・技術を差別化要素として打ち出す
・ブランドの信頼性を高める
・ライセンスや共同開発の交渉材料とする

といった形で活用されて初めて、知財は価値を生みます。

企業の出願動向を見ていくと、知財の使い方には明確な差が現れます。一つの製品について関連する技術を幅広く出願する企業もあれば、特定の技術に絞って出願する企業、さらに周辺技術まで含めて権利化する企業など、さまざまです。

どこで競争優位を築こうとしているのか、どの領域に注力しているのかといった、事業の考え方そのものが、出願内容に反映されているためです。

例えば、特定分野に集中して出願している企業は、その領域での優位性確立を狙っていると考えられますし、周辺技術まで広く押さえている企業は、参入障壁の構築を意識していると読み取ることができます。

さらに、特許や商標の内容を見ていくことで、その企業が今後どのような事業領域に進出しようとしているのか、その方向性を読み取ることも可能です。

このように、知財の使い方を見れば、その企業の事業戦略の方向性を読み取ることができます。つまり、知財戦略とは、事業戦略の写し鏡といっても過言ではありません。

オープンとクローズの戦略

知財戦略において重要なのは、「何を特許にするか」だけではありません。「何を特許にしないか」を含めて設計することが重要です。

すべてを特許として公開してしまうと、かえって競争優位を失うこともあります。そのため、技術の性質や事業モデルに応じて、「公開する技術」と「秘匿する技術」を切り分ける必要があります。

特許にすべき技術(オープン)は、次のようなものです。

  • 事業の差別化要素となる技術
  • 製品から解析されやすい技術(リバースエンジニアリングされやすいもの)
  • 標準化やライセンス展開を前提とする技術
  • OEM等で製造を外部委託する技術(秘匿が難しいもの)

外から見える、または広く使わせることに意味がある技術は、特許で押さえるべきです。

一方、秘密にすべき技術(クローズ)は、次のようなものです。

  • 製造プロセスやノウハウ(製造条件など)
  • 社内管理によって秘匿可能な技術
  • 特定の原料(天然物など)や配合

外から見えず、管理できる技術は、あえて公開せずに保持する方が競争力につながります。

重要なのは、「どちらが正しいか」ではありません。事業戦略に応じて、オープンとクローズを組み合わせることです。

知財戦略とは、特許とノウハウを切り分けながら、どこで競争優位を築くかを設計することにほかなりません。

技術はブランド価値の源泉になる

知財は新規開発の場面だけでなく、既存製品の価値を高める場面においても重要な役割を果たします。
特に、技術はブランドの信頼性や独自性を支える要素として機能します。

例えば化粧品の分野では、技術的な裏付けがそのままブランド価値に直結するケースが多く見られます。

例えば、以下のような活用が考えられます。

  • プレスリリースで「新処方は特許出願済み」と表示し、技術的な裏付けを示すことで信頼を獲得する
  • リニューアル製品に新成分を追加し、独自性を付与することで差別化を維持する
  • ロングセラー商品についても、改良特許(用途特許等)を活用し、ブランドの寿命を延ばす

このように、技術は単なる機能ではなく、ブランド価値そのものを支える基盤となります。

見た目やネーミングだけでなく、技術そのものがブランドの信頼性を支える要素になるという点は見落とされがちですが、非常に重要な視点です。このように、技術は単なる機能ではなく、ブランド価値そのものを支える要素として機能します。

まとめ ― 知財は事業に組み込んでこそ意味がある

知財は、単なる権利ではなく、事業の中で活用されて初めて価値を持つものです。

  • 何を特許にするか
  • 何を秘匿するか
  • どのようにブランドと結びつけるか

こうした判断はすべて、事業戦略と切り離して考えることはできません。

知財戦略とは、「何を取るか」ではなく、「どのように事業に組み込むか」を考えることといえるでしょう。

次回は、知財戦略をどのように設計していくかについて、実務の観点から整理します。

高松 孝行

株式会社ブランシェ 代表/弁理士(弁理士法人ブランシェ国際知的財産事務所)

国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)にて、最先端技術のライセンス交渉・事業化支援に従事。その後、スタートアップ支援や資金調達支援、ライセンス交渉等に携わる。現在は、株式会社ブランシェにおいて、技術を起点とした事業設計や知財戦略の立案を支援するとともに、弁理士として特許を中心とした権利化・係争業務にも従事。技術とビジネスを接続する実務に強みを有する。

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